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高松地方裁判所観音寺支部 昭和61年(ワ)36号 判決 1987年12月21日

主文

一  被告らは各自原告に対し金二三二六万一六〇三円及び内金二一二六万一六〇三円に対する昭和五九年一二月六日より支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金四〇二五万九九五〇円及び内金三六六五万九九五〇円に対する昭和五九年一二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故(以下、本件事故という。)の発生

(一) 日時 昭和五九年四月二四日午前九時五八分ころ

(二) 場所 香川県三豊郡高瀬町大字下勝間六八〇番地三先県道交差点

(三) 当事者 (1) 被告白川は、自己所有の普通乗用自動車を運転(登録番号香五五り六八三五)

(2) 被告中山は、自己所有の普通乗用自動車を運転(登録番号香五五な五二七三)

(3) 原告は、被告中山運転車両に同乗

(四) 事故態様

被告白川は、右車両を運転して西進し、信号機のある右交差点(前記交通事故発生場所)を右折するに際し、勤務に遅刻していたため急ぐあまり右折方向指示器を出さず、交差道路右方向にのみ注意をひかれ、前方道路状況を注視せずに右折したため、白川車の反対方向より同交差点に差しかかつた被告中山運転の車両に衝突した。被告中山も、被告白川車の動静に十分の注意を払わなかつたため、同車を避けられず白川車に衝突したもの。

2  責任原因

右事故は被告らが前方注視等を怠つた共同過失により発生したものである。よつて、被告らは民法七〇九条および自賠法三条により右事故により生じた原告の損害を連帯して賠償する義務がある。

3  原告の傷害および治療経過

(一) 原告は右事故により、右眼瞼裂傷、右強角膜裂傷、右前房出血、右眼硝子体出血、右網膜剥離、顔多発性切創、右兎眼、右びまん性表層性角膜炎などの傷害を受けた。

(二) 原告は次のとおり治療を受けた。

(1) 昭和五九年四月二四日、国土外科医院に通院(応急措置)

(2) 同年四月二四日より同年五月一九日まで、香川労災病院に入院(入院日数二六日間)

(3) 同年五月二一日より同年七月四日まで、岡山大学医学部付属病院に入院(入院日数四五日間)

(4) 同年七月五日より同年一二月五日まで、香川労災病院に通院(実通院日数八日)

(総治療期間二二六日間、入院期間七二日間、実入院七一日、通院期間一五四日間、実通院八日)

4  原告の後遺障害

原告は、前記傷害により前記のとおり治療を受けたが、次のとおりの後遺障害を残し昭和五九年一二月五日症状固定をみた。

(一) 右眼高度視力障害(実質的に失明)

(二) 右眼瞼に、主として瘢痕性収縮、副次的に運動機能障害による兎眼

(三) 右障害(一)は後遺障害等級表八級一号に、同(二)は同表一一級三号に該当し併合すると七級に相当し、自賠責保険調査事務所においても同様の認定を受けた。

5  損害 総計金 五五五二万五九五二円

(一) 治療費 金一五二万四六三五円

(二) 入院付添費 金一二万円

香川労災病院で一四日間、岡山大学付属病院で一六日間、合計三〇日、原告の妻が付き添つた。親族の付き添いであるので、一日当四〇〇〇円が相当である。

(三) 通院費 金二万四八〇〇円

香川労災病院分 金一万四八〇〇円

岡山大学付属病院分(原告と妻二名往復分) 金一万円

(四) 入院雑費 金七万一〇〇〇円

一日当金一〇〇〇円として七一日分

(五) 休業損害 金二五万三五六八円

(1) 特殊勤務手当の減少三ケ月分 金三万〇一三九円

事故前一二ケ月間の一ケ月当平均額×三一二〇、五六〇÷一二×三=三〇、一三九

(2) 時間外勤務手当の減少四ケ月分 金九万六一六一円

事故前一二ケ月間の一ケ月当平均額×四二八八、四八五÷一二×四=九六、一六一

(3) 夜間勤務手当の減少三ケ月分 金一万二一五八円

事故前一二ケ月間の一ケ月当平均額×三四八、六三四÷一二×三=一二、一五八

(4) 有給休暇の消費、一一日分金八万七八〇四円

事故前一二ケ月分給料の一一日分

二、九二一、五〇九÷三六×一一=八七、八〇四

(5) 昭和五九年一二月に支給されるべき期末、勤勉手当の減額分 金二万七三〇六円

右手当は本給の二・五ケ月分支給されるべきところ、約二・三二ケ月分の金三五万一九四四円のみ支給された。

一五一、七〇〇×二・五-三五一、九四四=二七、三〇六

(六) 逸失利益 金四五〇三万一九四九円

(1)  本件交通事故前、原告は心身共に壮健な青年であり、後遺障害なかりせば症状固定時満二九歳より満六七歳まで三八年間瑕疵のない労働が可能であつたが、本件後遺障害により一般論として五六パーセントの労働能力を喪失したと言える(労働基準監督局長通謀昭和三二年七月二日基発五五一号による。)。

(2)消防士労働について 金二四五〇万五六一七円

(イ) 本件事故前、原告は地域消防署に職業消防士として勤務し、各種の専門資格を有して消防、救急とも第一線で活躍する有能な消防士であつたが、本件後遺障害により身分を失うには至つていないが(原告の今の障害は、消防士としての就職については欠格事由に当たり就職出来ない。)、第一線勤務は全て退き、資格を活かす道もなく、日のあたらない補助的労働に就かざるを得ないのが実情であり、今後いわゆる出世は全く望みなく、事実上の障害により退職を余儀なくされる可能性も十分に考えられる。

(ロ) 現在は顕著な減収がないとは言え、内実と将来全般にわたる評価としての労働能力喪失率は四〇パーセントを下ることはない。

事故前一二ケ月(昭和五八年四月より昭和五九年三月まで)間の年収は金二九二万一五〇九円である。

(計算)

年収×喪失率×新ホフマン係数(三八年)

二、九二一、五〇九×〇、四×二〇・九七=二四、五〇五、六一七

(3) 農業労働について 金二〇五二万六三三二円

(イ)  原告家族の成人は原告の父母、原告夫婦、祖母の五名であるが、事故前母が若干の補助作業をする他は原告と父が中心となり、葉タバコ、米、麦、玉葱、にんにく等を自作地の外、親類の農地も借りて耕作しており、地域の中核農家であつた。

耕作名義は父清一であるが、かかる大がかりな農業が可能なのは原告の職業柄隔日勤務となるため、原告が多大な労働力を農業に投入できるからである。父清一は農業専業ではなく電気工として継続勤務をしている。

(ロ)  以上の次第で、本件事故がなければ右実情のままの農業労働が行われたはずである。しかし、事故後の原告の身体状況のため借地を返還したりして相当の経営縮小を余儀なくされているが、これも本件事故に起因するものである。

(ハ)  農業収入における原告の寄与率は将来的に父の比重が減つたであろうことを考えると、就労可能期間全体では六ないし七割になると考えられるが、とりあえず五割を下らないものとして考えた。

(ニ)  なお労働能力喪失率は、本件については前記労働省指数五六パーセントが妥当と考える。

(ホ)  原告一家の事故前農業所得(昭和五八年度実績)は、別紙農業所得計算書記載のとおりであり、年所得金三四九万五八六七円である。

(結論)右を前提に農業部門逸失利益を計算すると左のとおりとなる。

年収×寄与率×喪失率×新ホフマン係数(三八年)

三、四九五、八六七×〇、五×〇・五六×二〇・九七=二〇、五二六、三三二

(七) 慰謝料 合計金八五〇万円

(1)  傷害につき 金一五〇万円

入院二・五ケ月、通院五ケ月の重傷ケースとして。

傷害一般の苦痛の他、失明の恐怖は筆舌に尽くし難いものである。

(2)  後遺障害につき 金七〇〇万円

後遺障害等級表第七級相当として、その慰謝料は右金額が相当である。

消防士としてハードでかつ極めて健全な身体的能力を要求される職業の現場に就くことは今後全くありえず、職場内では日陰の存在となり、また比重の高い農業においても経営の縮小は著しく、社会人として一人前ではなくなつたのであり、また遠近認識不能な単眼状況は日常生活においても極めて大きな不自由不便を強いられるもので、その精神的苦痛ははかり知れない。

6 損害の填補と残損害

原告は本件損害につき、自陪責保険より金一八七七万八四三七円、任意保険より金八万七五六五円、合計金一八八六万六〇〇二円の支払を受けた。

よつて、原告の弁護士費用を除く残損害は金三六六五万九九五〇円となる。

7 弁護士費用 金三六〇万円

原告は本件訴訟を本件代理人に委任し、弁護士費用を除く請求権の判決認容額の一割を支払う旨約した。全額認容の場合、金三六〇万円(一〇万円未満切り捨て)となるが、この費用も本件事故による損害と言える。

よつて、原告は被告らに対し、連帯して6項記載の残損害と7項の合計金四〇二五万九九五〇円の支払いおよび7項を除く金三六六五万九九五〇円に対する不法行為以後の日(症状固定日の翌日)である昭和五九年一二月六日より支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2項の各事実は認める。

2  同3、4及び5(一)ないし(六)は不知。同5(七)項は争う。

3  同6項の弁済については認める。

4  同7項のうち、委任の事実は認め、その余は不知。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

一  請求原因1、2項の各事実については当事者間に争いがない。

二  請求原因3(傷害、治療)について

いずれも原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二号証の一ないし五、第四号証の一、二の一、二の二、三の一、三の二、四、五の一ないし五の六、及び原告本人尋問の結果によれば、請求原因3の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

三  請求原因4(後遺障害)について

前項記載の各証拠及び原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三号証、第五号証の一、二によれば、請求原因4の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右によると原告の後遺障害は、後遺障害等級表八級一号と一一級三号を併せて同表七級に相当する。

四  請求原因5(損害)について

1  前記三項記載の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、請求原因5(一)ないし(四)の各事実が認められ(但し、(二)入院付添費については、診断書に附添看護を要せずとある香川労災病院での一四日分については、その必要性を認めることはできない。)、右認定に反する証拠はない。また(二)一日当りの入院付添費及び(四)一日当りの入院雑費の額も原告主張の額が相当である。

2  原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第六号証、原告本人尋問の結果、及び弁論の全趣旨によれば、請求原因5(五)の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。なお、休業損害について、年次有給休暇を消費した場合でも損害として認めるのが相当である。

3  請求原因5(六)(逸失利益)について

(一)  消防士労働

(1) 前記三項記載の各証拠及び被告中山秀一本人尋問の結果によれば、原告は併合して後遺障害等級表七級の後遺障害が残つており、同級の労働能力喪失率は五六パーセントであること、原告は本件事故前は職業消防士として、普通乗用車運転免許証の外、消防救急隊員適任証、小型船舶四級、潜水士免許、電話交換取扱者認定証、消防用車両機関員等の資格を有し、消防、救急の第一線で活躍していたところ、前記後遺障害により第一線勤務が不可能(新規採用については資格外)となり、現在は、主として一一九番の電話を受けて手配する通信勤務員の勤務に従事しており、今後の人事異動等において職種が限定され、必然的に将来の昇進、昇給に遅れの出ることが確実となつていること、前記各資格中電話交換取扱者認定証を除いて資格を活かして就業する途がなくなつたこと、がそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。

(2) しかしながら、他方、右証拠によれば、前記後遺障害中右眼瞼傷害(一一級三号)はそれ自体直接労働能力の喪失につながらないこと(後遺障害慰謝料算定の基礎となることは別問題である。)、原告は本件事故により降格や減給に至つていないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(3) 右によれば、原告の消防士としての労働能力喪失率は三五パーセントと認めるのが相当である。

(4) なお、右証拠によれば、原告の本件事故前の消防士労働収入は年間二九二万一五〇九円であることが認められる。

(二)  農業労働

(1) 原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第七号証の一ないし四、第八号証の一、二、第九号証の一ないし三、第一〇号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、請求原因5(六)(3)(イ)、(ロ)、(ホ)の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(2) 右事実及び原告が本件事故前は消防士として隔日勤務となつていたため、非番の日に農業労働に従事していたこと等諸般の事情を考慮すると、原告の一家の中での農業労働への寄与率は二五パーセントと認定するのが相当である。

(3) 前記三項で認定の事実、及び原告が従事していたのは農業労働という肉体労働であること、ことに右眼実質失明により農業用機械の運転に高度の障害が生じていること(以上、前記(1)項記載の各証拠により認める。)、原告の後遺障害により原告一家において農業収入の減少が認められること、前記のとおり右眼瞼傷害(一一級三号)自体は直接労働能力の喪失につながらないことを総合すると、原告の農業労働における労働能力喪失率は四五パーセントと認定するのが相当である。

4  計算

(一)  治療費 金一五二万四六三五円

(二)  入院付添費 金六万四〇〇〇円

一日四〇〇〇円、一六日間

(三)  通院費 金二万四八〇〇円

(四)  雑費 金七万一〇〇〇円

一日一〇〇〇円、七一日間

(五)  休業損害 金二五万三五六八円

(六)  逸失利益 合計金二九六八万九六〇二円

(1) 消防士労働 金二一四四万二四一五円

二九二万一五〇九円(年収)×〇・三五(喪失率)×二〇・九七(三八年、新ホフマン係数)=二一四四万二四一五円

(2) 農業労働 金八二四万七一八七円

三四九万五八六七円(年収)×〇・二五(寄与率)×〇・四五(喪失率)×二〇・九七(三八年、新ホフマン係数)=八二四万七一八七円

(七)  慰謝料 合計金八五〇万円

(1) 傷害 金一〇〇万円

(2) 後遺障害 金七五〇万円

(八)  以上の損害合計金四〇一二万七六〇五円より填補額金一八八六万六〇〇二円(当事者間に争いがない。)を差し引くと金二一二六万一六〇三円となる。

(九)  弁護士費用 金二〇〇万円

原告が原告代理人弁護士平井範明に本件訴訟を委任したことは当事者間に争いがない。

五  結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求中、原告が被告両名に対し、各自、金二三二六万一六〇三円及び内金二一二六万一六〇三円に対する不法行為(本件事故)以後の日である昭和五九年一二月六日より支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、注文のとおり判決する。

(裁判官 榎本巧)

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